(2)分析結果

各試料毎の花粉分析結果を表3−13に一覧表として示す。

また、図3−58には、同表の結果に基づいて作成した花粉化石組成図を示した。本図において、各花粉・胞子化石の出現率は、木本花粉(Arboreal Pollen)については木本花粉の合計個体数を、草本花粉(Nonarboreal Pollen)とシダ植物胞子(Pteridophyta Spores)は花粉・胞子の合計個体数をそれぞれ基数として百分率を求めた。

なお、これらの図表で複数の種類をハイフォン(−)で結んだものは、その間の区別が不明瞭なものである。

表3−13 藤岡町深見地区花粉分析結果一覧表

図3−58藤岡町深見地区 花粉化石組成図         

以下には、各試料毎の分析結果について簡単に記述する。

1) トレンチ南側壁面採取試料

CTP−3試料

黒褐色から黒色を帯びた植物片を産出するが、花粉化石は全く認められない。よって、本試料の古環境及び時代について検討することはできなかった。

CTP−4試料

本試料の木本花粉では、クリ属が卓越し、これに続いてコナラ亜属が高率に産出する。この他に、クマシデ属、ハンノキ属、イチイ科〜イヌガヤ科〜ヒノキ科、スギ属、ニレ属〜ケヤキ属等が低率で産出する。また、草本花粉とシダ植物胞子では、イネ科、カヤツリグサ科、ヨモギ属等を産出する。

本試料の花粉化石群集は常緑広葉樹を含まず、中村(1972)や吉野ほか(1980)等に認められている晩氷期の花粉化石群集と良く一致し、14C年代(C8−1試料)の12,350±150y.B.P.(氷河期以降の温暖化しつつある時期)とも調和的な時代に対比される。

CTP−8試料

本試料の木本化石では、主にツガ属、トウヒ属、マツ単維管束亜属、コウヤマキ属等の針葉樹と、コナラ亜属、カバノキ属、クマシデ属〜アサダ属等の落葉広葉樹が産出する。草本花粉・シダ植物胞子では、イネ科、カヤツリグサ科、セリ科、ヨモギ属、キク亜科等を主に産出している。

花粉の組み合わせより、中間温帯〜冷温帯の冷涼な気候が推定される。このような気候はTP−6試料よりもやや穏やかであり、時代的には最終氷期の最寒冷期(約18,000年前)以前に相当すると考えられる。この時期は、本試料よりやや下位の層準(TP+150.48m、約0.7m下位)に当たるボーリングコアのC3−2試料で得られた14C年代27,990±390y.B.P.と調和している。

2) 試掘壁面採取試料

CMP−1、MP−2、MP−3試料

これらの試料はいずれもほとんど同じ花粉化石群集を示している。木本花粉ではコナラ亜属が卓越し、クリ属、クマシデ属〜アサダ属、ハンノキ属等が産出している。草本花粉・シダ植物胞子ではイネ科が多産し、カヤツリグサ科、ヨモギ属、キク亜科等が産出している。

このような花粉の組み合わせより、温暖帯と冷温帯の間に当たる中間温帯林と考えられる。このような花粉化石群集は、中村(1972)や吉野ほか(1980)等に認められている晩氷期の花粉化石群集に一致し、これに対比される。さらに、トレンチで採取されたTP−4試料のクリ属を除いた花粉化石群集とも良く一致している。

試掘壁面で採取した試料の14C年代は、MP−1と同層準のMC−1試料:11,740± 60y.B.P.、MC−5試料:11,870± 40y.B.P.であり、MP−2と同層準のMC−2試料:11,780± 50y.B.P.、MC−4試料:11,680± 50y.B.P.、MC−6試料:11,200±100y.B.P.の値が得られている。これらの年代は、TP−4試料と同層準と考えられるC8−1試料の12,350±150y.B.P.に近似し、いずれも同じ晩氷期に当たる。

一方、MP−3試料については14C年代は得られていないが、花粉化石群集がMP−1、MP−2試料と一致するため、MP−1、MP−2、MP−3の各試料は、TP−4試料と同じ約12,000年前を前後する晩氷期の堆積物であると結論される。よって、14C年代で推定された試掘壁面のa、b両層とトレンチ周辺のC層との対比は、花粉化石群集のデータからも支持される。

CMP−4試料

本試料は花粉化石の産出が非常に少なく、スギ属とハンノキ属が産出するにすぎないため、古環境及び時代の解析は困難である。なお、スギ属は23個を検出しているが、試料の状態、花粉化石の保存状態、試料の採取時期等から考えて、これらの花粉は現生花粉が混入したものと結論される。

3) ボーリングコア採取試料

CP2−1試料

本試料の花粉・胞子化石は変質して保存が悪いものの、産出量は多い。木本花粉では、コナラ亜属とクリ属が多産し、ツガ属、トウヒ属、マツ属単維管束亜属、ブナ属、クマシデ属〜アサダ属等を伴っている。草本花粉の産出も多く、イネ科、カヤツリグサ科、ヨモギ属、セリ科等が多産し、ウメバチソウ属、マツムシソウ属等の冷涼〜寒冷地に分布するものがわずかに伴われる。

この古気候は基本的には中間温帯と思われるが、冷温帯要素及び亜寒帯要素を伴うことを考慮すると、やや冷涼な中間温帯〜冷温帯下部と推定される。

本試料の花粉化石群集は、前述のTP−4、MP−1〜3試料、さらに愛知県及びその周辺における晩氷期の花粉化石群集(中村,1972;吉野ほか,1980)に類似し、本試料は晩氷期の堆積物と考えられる。

したがって、本試料はTP−4試料よりも冷涼な気候下にあり、時代的にもやや古いと判断される。したがって、本試料の層準はTP−6とTP−4の間に当たり、時代的には最終氷期の最寒冷期を過ぎた晩氷期と考えられる。

P2−1試料はトレンチよりやや離れた位置で行われたボーリングNo.2で採取された試料であるが、TP−4試料はC層基底付近に位置するため、本試料は層序的にはトレンチ及びその周辺で区分したB層に対比される。

花粉化石分析 引用文献

Matsushita,Mariko and Sanukida,Satoshi(1988):Holocene Vegetation History around Lake Hamana on the Pacific Coast of Central Japan. The Quaternary Research, 26, 4, p. 393−399.

中村 純(1972):濃尾平野およびその周辺地域の第四紀の花粉分析学的研究

−濃尾平野の研究2−.高知大学学術研究報告,自然科学,21,pp.1−45.

吉野 道彦・酒井 潤一・西村 祥子(1980):濃尾平野佐屋・津島におけるボーリング・コアの花粉化石.第四紀研究,19,3, pp.163−171.

表3−14 年代測定結果と花粉分析の対比表