(2)フィッション・トラック年代測定

@測定原理及び測定手順

フィッション・トラック年代測定は、後述の火山灰分析の前処理を行った後、ジルコンを抽出する。

フィッション・トラック法は、比較的最近から10億年までの絶対年代測定が可能であり、K−Ar法などと共に良く用いられる地質年代測定法のひとつである。以下に原理と測定方法について述べる。

天然鉱物は結晶化する時にウランを数100ppm(ppm: 1×10−6)〜数ppb(ppb: 1×10−9)含んでいる。ウランには238Uと235U等の同位体があるが、この238Uは約1億年の半減期で自発核分裂し、鉱物中にトラック(飛跡)を形成する。このトラックを利用して地質年代測定を行うのがフィッション・トラック法である。

鉱物中のトラック数は、ウラン濃度とその年代値に比例しており、同一の鉱物では年代が古いものほどトラック数が多い。しかし、ウラン濃度は、鉱物により異なっているため、鉱物の年代値を得るためには自発核分裂トラック数と初生ウラン(238U)濃度を求める必要がある。

自発核分裂トラック数は、鉱物の表面を化学的に腐食(エッチングという)することによって光学的に観察できるようになり、計数することによって求められる。初生ウラン濃度は、鉱物などが晶出した時には、238Uと235Uが定まった比率で存在し、235U が自発核分裂しないことを利用して初生238U量を算出する。鉱物中の235U量は、熱中性子線照射により235Uのみが誘導核分裂し、その結果、形成される誘導核分裂トラックを計数することから求められる。したがって、年代値は求められた自発核分裂トラック数と誘導核分裂トラック数(初生ウラン(238U)濃度に対応)の比から、算出される。測定は、zeta較正(Hurdord and Green,1983)による外部ディテクター法(Danhara et al.,1991)で行う。

図6−2−1に外部ディテクター法の測定手順を示した。

A年代算定式

年代算定式は、次の通りである。

式2−6−2−2

ここでTは年代値、λD は 238Uの全壊変定数(1.480×10−10 y−1)、ζは測定方法ごとに較正されたzeta値である。

また、上式で算出された年代値の誤差(1σ)は下式で得られる。

Error =〔1/ΣNs+1/Σni+1ΣNd+(σzata/ζ2 〕1/2

B測定工程

A.粉砕・水洗い

軟質な試料は、指圧による粉砕する。硬質な試料は、ジョークラッシャー、ミルなどを用いて粉砕する。粉砕試料は、水中で撹拌し、懸濁がなくなるまで水による粘土分の分散処理を繰り返し、粘土分を除去する。

B.フルイ分け

60メッシュ以上と以下にフルイ分けする。測定用には、60メッシュ以下を用いる。フルイ分けには常にテトロン製のメッシュクロスを用い、一度使用したら使い捨て、混合を防止する。

C.乾 燥

乾燥器で乾燥し、秤量する。

D.碗かけ

試料中の鉱物を、その鉱物の比重を利用して粗く軽・重の比重成分に分離する。このうち軽比重成分には火山ガラスや軽鉱物が濃集され、一方重比重成分には斜方輝石、単斜輝石、普通角閃石、ジルコンなどの重鉱物が濃集する。軽比重成分は、ここで廃棄する。

E.磁選

重鉱物のうち斜方輝石、単斜輝石、普通角閃石などは弱い磁性を持つのに対して、ジルコンは磁性を持たない。この性質を利用して、永久磁石および電磁分離器を用いて、重比重成分からジルコンを濃縮する。

F.重液分離

磁選された試料には、ジルコン以外の磁性を持たない鉱物・岩片が混ざっている。ジルコンの比重は、4.6 〜4.7 と他の重鉱物と比べて大きな値を示す。この性質を利用して、重液(ヨウ化メチレンまたはブロモホルム)を用いてジルコンのみにする。

G.超音波洗浄

ジルコンに粘土などの微粒子が付着しているため、それらを洗浄するために超音波洗浄を行う。洗浄後、乾燥する。

H.エッチング

ジルコンの結晶面を水酸化カリウム(LKOH):水酸化ナトリウム(NaOH)=1:1(mol)の共融体(温度225℃)中に30時間つける。この処理で、ジルコンの結晶面に光学的に観察できるトラックが表われる。

I.手選・ジルコン結晶のテフロン板への埋込み

エッチング後のジルコンを色・形・トラック数で分類する。明らかに、色・形・トラック数から異質結晶と判断されるものがあるかどうかを判定し、異質結晶を除去する。ここで、抽出ジルコン中の本質結晶数を求め、本質結晶含有量を計算する。本質結晶から約30〜70粒選び、テフロン板へ埋込む。

J.自発核分裂トラックの計数

ジルコン結晶ごとの自発核分裂トラックを計数する。外部ディテクター法では、計数後、ジルコン結晶面に白雲母(外部ディテクター)を装着する。

K.熱中性子線照射

ジルコン結晶を埋込んだテフロン板と標準ガラスを収納器に入れて、原子炉で熱中性子を照射する。標準ガラスは、照射された熱中性子線量を測定するためのものである。

L.エッチング・自発核分裂トラックの計数

再エッチ法では、ジルコン結晶を外部ディテクター法では、白雲母をエッチングし、誘発核分裂トラックを観察できるようにし、誘発核分裂トラックを計数する。

M.熱中性子線量の測定

標準ガラスをエッチングし、照射された熱中性子線量を測定する。

N.年代値計算

ジルコン結晶ごとの自発核分裂トラック数と誘発核分裂トラック数との比から結晶ごとの粒子年代を算出し、試料の年代値を統計的に計算する方法を用いた。

図6−2−1 フシッション・トラック法(外部ディテクター法)の手順