(3)空中写真の判読方法

1)地形分類

空中写真を実体鏡で実体視して次の地形を判読した。

・現河床

現在の河川敷等に分布する箇所を判読した。

・砂丘・自然堤防

砂丘は、海岸沿いの周辺より1〜数m高い微地形を示す。自然堤防は、旧河道の周辺の周囲より1〜2m高い半月状の微地形を示す。

図2−1−1 砂丘及び自然堤防

・沖積低地・谷底低地

沖積低地として氾濫原平野の後背湿地等を示した。また谷底低地は丘陵部の谷部の沖積面を示した。

図2−1−2 沖積低地及び谷底平野

・扇状地

谷部の出口の扇状の地形の箇所を扇状地とした。一部土石流堆等も含む。

図2−1−3 扇状地

・埋立地

主に衣浦港の臨海地帯の江戸時代からの埋立地を示した。既存資料を参考に図示した。

・段 丘

河川の堆積作用(河道の安定期)と侵食作用(地盤の上昇や海水面の低下期)の繰り返しで形成されたもので、段丘面と段丘崖で特徴づけられる。

ここでは、既存資料等も参考にして段丘面の高さより下位段丘、中位段丘、上位段丘、高位段丘の4段に区分した。

図2−1−4 段丘地形

・残存平坦面

定高性のある丘陵背面を残存地形面とした。加木屋層等の礫層が分布する地形面である。

・丘陵・山地

段丘や残存地形面以外の丘陵地の斜面をしめした。

・遷急線

残存地形面と丘陵斜面の間の明瞭な遷急線を示した。

・フォトリニアメント

図2−1−6に示したように直線的に連続して配列する鞍部や地形変換点、直線的な谷をリニアメントとして表示した。

・崩壊地

崩壊地は急峻な谷の頭部に発生することが多く、新しい崩壊跡地は植生が侵入しておらず禿地となっている。また、崩壊地の下部には崩壊土砂(崩積土)が分布する。古い崩壊地は植生が侵入し判別が難しいが、植生が周辺と異なることや樹高が周辺の樹木より低いことより判定出来ることもある。

図2−1−5 崩壊地の地形

・地すべり地

第三系の地層では、特徴的な馬蹄型の地形を呈する。即ち頭部の滑落崖及び末端部の舌部の地形が特徴的である。

図2−1−7 第三系が分布する丘陵地の地すべり地形

2)断層変位地形

(1)断層の種類

図2−1−8に縦ずれ活断層の2種(正断層と逆断層)の模式的な例を示し、図2−1−9に横ずれ活断層の2種(右ずれ断層と左ずれ断層)を示す。これらの図でわかるように、活断層は一般に、地形をくいちがわせている。縦ずれの場合は、高さがくいちがい、横ずれの場合は、平面的な位置がくいちがう。いずれも地形的特徴のくいちがいとなって地表面に現れている。

くいちがいの痕跡は第四紀後期、とくに現在に近い時期に活動したものほど明瞭である。古い時期にこのようなくいちがいをおこしたとしても、その後の活動がなければ、それらは浸食や堆積の作用のために次第に不明瞭になり、ついにはその痕跡が消されてしまう。活断層でない断層は、そのようにして、地表面の特色がなくなってしまうことが多い(断層沿いに浸食がすすんでできる断層線谷や断層の両側の岩石の差別的浸食によって断層線崖ができることもある)。

図2−1−8 縦ズレ活断層の模式例 図2−1−9 縦ズレ活断層の模式例

(2)断層変位地形

断層運動(断層に沿う両側地盤の変位運動)によって生じたいろいろな地形を断層変位地形と呼ぶ。従来から使われている「断層地形」には、ここでいう断層変位地形と古い地質時代の断層に規制されて生じた浸食地形(=断層組織地形)の両方を含む場合もあるので、混乱をさけるために、ここでは断層変位地形の語を用いる。断層変位地形を表す主な用語を表2−1−1に、断層変位地形の模式図を図2−1−10図2−1−11に示した。実際に観察される地形は、これらに示したいくつかの地形の性質が複合したり、それに浸食作用がさまざまの程度に重なっている。

@崖地形

地下の断層運動が地表にまで、あるいは地表近くまで及べば、地表は切断されるか、あるいは傾きたわむ。このような、断層運動に対応して地表に生じた比較的急な斜面あるいは崖(以下、一括して崖という)を変動崖と称する。その場合、地表面が切断され上下にくいちがいを生じた崖が断層崖、撓みによって生じた崖が撓曲崖である(図2−1−10のCとA)。しかし、実際には空中写真判読だけでは両者の区別は困難なことが多い。

A凹地形

断層運動によって地表に各種の変動谷あるいは変動凹地ができることがある。それらのうち、断層変位の結果生じた谷を断層谷というが、一般に浸食や堆積の影響も二次的に加わっている。これは断層崖麓に断層角盆地や狭い地溝が形成される場合などに生じる。二つのほぼ平行する断層によって両側を限られた、溝状の凹地が地溝である(図2−1−11G)。その幅がおよそ数十m以下のものを特に小池溝・(地)溝状凹地と呼ぶこともある。また、一般に断層線状に生じた比較的小さな盆状の沈降地を断層凹地という。そこに水が溜まっている場合が断層陥没池である。断層線沿いにみられる池は陥没によるだけでなくいろいろの成因のものがある。たとえば、谷の下流側地盤が隆起または横ずれしたため、上流側地盤に堰止め性の池や断層破砕帯からの湧水による池が生じることもある。断層線が尾根を横切る所に、鞍部ができていることがある。このような鞍部の地形は、尾根を切った断層運動で生じたものか、断層破砕帯沿いの浸食による浸食地形かのいずれかである。または、両者の重なったものである。主に断層変位によって生じた鞍部を断層鞍部と呼ぶ。

表2−1−1 断層変位地形の主な用語

図2−1−10 断層崖の諸例

図2−1−11 右ズレ断層による変位地形の諸例

B凸地形

断層運動に伴って各種の相対的隆起地形、すなわち、変動凸地形ができる。両側を断層で限られた細長い隆起地を地塁といい、幅や高さが数十mの程度の小規模な地塁をとくに小地塁と呼ぶことがある。明瞭な地塁の場合は別にして、ある地点を中心として周辺より盛り上がってできた地形をふくらみと称する(図2−1−11 E)。

C横ずれ地形

谷(流路)・尾根・段丘崖・山麓線などが、断層線を境にして屈曲していることがある。このような断層運動による土地の横ずれのために生じた地形が横ずれ地形である。しかし、浸食作用によって、断層(線)の部分で谷や尾根が偶然に屈曲することもありうるので、それらが系統的に屈曲していることが横ずれ活断層の確実な証拠となる。段丘崖はかつての河川の側方浸食崖で、一般になめらかな弧をえがくが、横ずれによってくいちがうと、断層部で屈曲する。

D地形面の傾動

地形面が現在も続いている地殻変動により傾いている場所。段丘面等はほぼ水平であるが、本来の堆積面の傾斜方向と異なった方向へ傾動していたり、堆積時の傾斜より異常に急な傾斜等より傾動方面が判定できる。段丘崖か断層崖の判定は間違いやすいが傾動方向の異なる段丘面の境界の崖が断層崖であることがある。

変動地形は、断層運動だけでなく、撓曲運動によっても形成される。

E活撓曲

活断層のうち、断層の変位が柔らかい地層内で拡散し、地表に段差ではなくたわみとして現れたものである。丘陵末端部や段丘面等の平坦面の一部が撓んでいる箇所等が活撓曲の可能性が高い(図2−1−12参照)。

(3)空中写真判読による活断層の認定

活断層の発見、認定に当たっては、(2)で述べたような活断層に伴う変位地形をもれなく見出すことが必要で、そのためには空中写真による地形の判読がもっとも重要な手法である。空中写真の判読による活断層認定の手順は図2−1−13に示した。以下この順にしたがって説明する。

図2−1−13 空中写真による活断層の認定の手順(松田ほか1977)

(4)リニアメントの抽出

線状に続く谷地形や崖、異なる種類の地形の境界などの地形的に続く線状模様(リニアメント)を抽出する。あるリニアメントを活断層であると判定するためには、同時代にできたひと続きの地形面または地形線を基準として、それらが問題とするリニアメントの両側でくいちがっていることが確かめられなければならない。このような断層変位の有無を知るのに役立つ地形を(変位)基準地形という。これには、面状をなす基準地形面(種々の段丘面、浸食小起伏面等)と線状をなす基準地形線(旧汀線、段丘崖、河谷の谷筋、稜線など)とがある。日本列島では、現在保存されていろこのような基準地形の形成年代は第四紀、すなわち100〜200万年以内と考えられているから、上述のような基準地形がリニアメントを境にくいちがっていることが確かめられれば、そのリニアメントを活断層とみなしてよい。また、基準地形のくいちがいの状態から、横ずれ谷、閉塞丘などが形成されるので、地形的リニアメントに沿ってこれらの断層変位地形が認められるかどうかによって活断層の認定を行うことも多い。

(5)活実度・向きの確定

活断層の認定に必要な基準地形が、問題のリニアメントの両側に都合よく分布しているとは限らない。また、両側に認められる似た形状の地形が、同じ作用で生じたかどうかは写真判読から確かめにくいことがある。このような基準地形の欠如や性質の不確かさに応じて、そのリニアメントを活断層とする判断が不確かになる。しかし、不確かな場合であっても、そのリニアメントを抽出しておくことは将来の精査のためには有益である。その際にはそのリニアメントの“活断層らしさ”の程度がわかるように、以下のような確実度の表示を行う。

確実度T: 活断層であることが確実なもの。具体的には次のどれかの地形的特徴をもち、断層の位置、変位のむきがともに明確であるものをいう。

1)数本以上にわたる尾根・谷の系統的な横ずれ。

2)ひと続きであることが確かな地形面を切る崖線。

3)時代を異にする地形面群を切っている崖線があり、古い地形面ほど変位が大きい(変位の累積が認められる)場合。

4)同一地形面の変形(撓み・傾斜など)。

5)第四紀層を変位させている断層の露頭。

確実度U: 活断層であると推定されるもの。すなわち、位置・変位の向きも推定できるが、確実度Tと判定できる決定的な資料に欠けるもの。たとえば以下のような場合である。

1)2〜3本程度以下の尾根や谷が横ずれを示す場合。

2)断層崖と思われる地形の両側の変位基準地形が時代を異にする場合。

3)明瞭な基準地形がない場合(山地など)。

確実度V: 活断層の可能性があるが、変位のむきが不明であったり、他の原因、たとえば川や海の浸食による崖、あるいは断層に沿う浸食作用によってリニアメントが形成された疑いが残るもの。

今回の付図2(付図2−1−1付図2−1−2付図2−2−1付図2−2−2)断層変位地形は、明瞭(確実度T)およびやや明瞭(確実度U)の2区分で表示した。

活動度は、平均変位速度(S)で評価している。1000年当たりの平均変位量を1mと10cmを境にABCの3ランクに区分している(表2−1−2)。実際には活断層を挟んだ両側の年代の判明した基準地形面(段丘面や浸食小起伏面等)や地層の変位量より求める。

表2−1−2 平均変位速度による活断層に活動度の分類的(松田、1975)