3−3−1 岐阜−一宮線

本調査で実施した大深度反射法探査の結果により以下の事項が判明した。

1)一宮測線(LINE−1)と木曽川町測線(LINE−2)ともに基盤から地表まで連続し、垂直的な累積変位を示す断層は認められない。

2)想定されていた岐阜−一宮線近傍には基盤の部分的高まり(比高100m程度)が認められる。基盤の上位の地層はこの高まりを埋め立てるように堆積しているように見える。

3)基盤の高まりは両測線ともに認められ、連続している可能性が高い(図3−48)。

4)木曽川町測線では浅部の地層に小さな不連続が認められるが深部まで連続していない。

これまで、岐阜−一宮線は、基盤岩体の変動(断層)に伴う更新統の撓曲構造として推定されている。しかし、1)と2)は、地下2000m程度までの地質構造には上下の累積変位を有する変動(縦ずれ断層や隆起)がなかったか、あるいは非常に小さいものであったことを示唆している。参考のために、図3−49には垂直累積変位1000mに達する大阪湾断層や富山平野内の呉羽山断層の反射記録例を示す。

一方、上下変位を伴わない横ずれ断層であれば、反射記録上でこれを読み取るのは困難になる。しかし、これまでこの断層が存在する可能性を示唆していたデータはすべて上下変位を仮定したものであり、現状において上下変位を伴わない横ずれ断層の存在を積極的に示唆するデータはない。

このように、反射記録からは、少なくとも垂直方向の累積変位を有する断層は存在しないことが判明し、あわせて、既存のボーリング資料の再解析でも明瞭な断層の兆候は認められないことなどから、岐阜−一宮線はこれまで大きな地震を繰り返し起こしてきた主要起震断層であるとは考えられない。ただし、岐阜−一宮線が最近になって動いたとすれば、その痕跡は小さいものとなりその結果反射法で検出できなかった可能性も有り得るため、確実に活断層はないとまではいえない。

以上の調査結果は、岐阜−一宮線が長期間にわたって活動した断層であることに対して否定的であるが、本調査地域北方で内陸型地震として最大級の濃尾地震が発生し、濃尾平野において甚大な被害を与えただけでなく、以下に示すような地形・地質的な異常が岐阜−一宮線近傍に認められることも無視できない。

・反射記録上の基盤の上位の地層は、岐阜−一宮線付近を境として西側でその傾斜を若干急にしている。この傾向は図3−50に示した現在の地表地形にも現れており、LINE−1のJR東海道本線付近の西側で傾斜を急にしている。この傾斜の急変点は扇状地末端より4kmほど南西に位置している(図3−6−1)。この地表地形の急変は、谷津(1954)により指摘されているように、河川により運搬・堆積される砂礫の粒径の不連続性に起因している可能性が高い。

・松沢・桑原(1964)及び桑原(1985)により、JR付近を境として地層が全体的に西にやや急傾斜を示す撓曲が指摘されている。これは、岐阜−一宮線を対象とした本調査のボーリング資料の再解析結果でも認められるだけでなく、反射記録ともその傾向は一致している。

図3−51には最近15年間の地下水位観測井で得られた(東海三県地盤沈下調査会、1997)累計の沈下量を示した。この沈下量分布は、岐阜−一宮線付近を境として大きく二分され、東側は沈下が殆ど無いのに対して西側は西方に急速に沈下量を増大させている。この沈下量は沖積層の層厚と良い相関を示している。

・濃尾地震時の水準点変動(図3−52)によれば、北西−南東方向の各務原市−春日井市間に隆起軸が、大垣市のやや東を通る同一方向に沈降軸が存在している。濃尾地震時の隆起は反射記録上の基盤の高まりと位置が離れ過ぎているため直接的な関係はないものと考えられる。この水準変動については、松田(1974)による岐阜−一宮線の東側の広い隆起部は根尾谷・梅原両断層の左ずれに伴う特徴的な末端隆起現象(図3−53)であり、岐阜−一宮線は隆起部の発生に伴い間接的に出現したとする考え方と、村松(1964)による岐阜−一宮線は根尾谷断層の真の延長であり、隆起・沈降の境界に対応しているとする考え方がある。さらに、三雲・安藤(1975)は、岐阜−一宮線に沿って分岐断層を想定し、東側隆起で水平・垂直各1mの変位を与えた場合実測された水準変動を説明できるとした。

・反射記録の浅部には小規模な地層の不連続が多数認められ、木曽川町測線(Line−2)で顕著である。

・濃尾地震時の被害分布から推定した震度分布(図3−23)では、木曽川及び長良川沿いの広範囲な沖積平野に震度6以上の激震域が存在し、岐阜−一宮間及び大垣西方では震度7を示している。これらの震度分布は北西−南東方向のトレンドを持ち、図3−51に示した沖積層の厚さ及び地盤沈下量と良く対応している。さらに、今回収集したボーリング資料に基づき、地表最大加速度を全地域で200galと仮定し、簡易法(D50法)を用いて液状化危険度(PL値)を推定した。これは、断層モデルを仮定しないで、液状化に対する表層地質のみの影響の概略を把握することを目的としている。図3−54に示した結果では、岐阜−一宮線付近を境として液状化危険度には違いが見られ、西側で危険度が大きく、東側で危険度が小さい傾向が見られる。この危険度が変化する主要因としては、表層付近の地質、特に沖積砂層の層厚やその層相の違いが考えられる。

以上のように、大深度反射法探査結果でも地表付近に小規模な地層の不連続が認められることや、岐阜−一宮線が推定されている付近で、濃尾地震の前後10年間の水準変動、地表地形や地層の傾斜、地盤沈下量などに変化が見られること、濃尾地震時の被害集中を始め遺跡発掘の際には液状化跡などが少なからず発見されていること、さらには軟弱な沖積層が厚く発達していることなども考慮すると、岐阜−一宮線は主要起震断層ではないことが明らかにされたとはいえ、地震に対する注意は引き続き怠るべきではないと判断される。